| フライフィッシングのAFO | |||
|
|||
|
|
|||
![]()
|
川のせせらぎを辿って
〜 北海道はアメ時々サクラのちニジ 〜
黒須雪子 (Yukiko Kurosu) について
「アメマス」釧路空港でレンタカーを待つ間、団長のOさんが満面の笑みでいう。 「寝てても釣れるけど、馬に蹴られないように」 ??? さすが北海道の釣りは内地の人の常識を超越している。 釧路空港から根釧国道を根室方面へ。ゴールデンウイークというのに日陰には雪がしっかり残り、レンタカーはまだ皆スタッドレスをはいている。 芽吹きには早く、湿原も牧草地も枯草色で覆われている。春に生まれたての小さな仔牛たちが、まだボサボサの毛にくるまれて、どこの牧場にも大切そうに囲われていて、 新たな命を慈しむ牧場主さんたちの幸せが伝わってくる。 目指すは浜中、アメマス狙い。厚岸(あっけし)方面から別寒辺牛(べかんべうし)川を越え、Route 123、ムツゴロウさんの動物王国を過ぎRoute142 幌戸(ほろと)の先、オキト橋がかかる流れこみ。海からの強い潮風が吹き上がっているが、馬たちは意にも介さずのんびり草を食んでいる。寝てても釣れるというアメマス満載のこの沼で、 まずは全員ボウズを脱し、初日から気鋭をあげようというのが狙いだ。 早速、Oさんの竿がしなる。一同、気を引き締めていると、またもやOさんにアタリが。いつもながら流石である。連発アメマスはとろりとしたにび色にタピオカのような斑点をいっぱい載せて、どれもなかなか良い型だ。 我々の親分であるOさんより、たまさか、計らずも、先に釣ってしまうと弟子たちとしては気まずい思いもあるので(そういうときは控えめにリリースすべし)、皆に先駆けOさんがまず爆釣することは、幕開けとして大変好ましい展開である。 幸先よしと思ったのも束の間、なぜだかぱったり食いが止んでしまった。手を変え品を変え、ポイントを変え、確かに拝んだアメマスの姿に興奮さめやらぬ我々に、うんともすんともアタリはこない。
アメマスたちは一体どこへ。なにしろここは地元ガイドが最後の手段で案内するというアブレなしの沼らしい。全員のキャスティングにも熱が入る。我々に釣らせたい一心のOさんの思惑をよそに、
その後、魚信は途絶え半日の空振り、ついに日没が迫り来る。夕陽のオレンジと暮れなずむすみれ色がまじりあい、神秘を湛えた沼は、見渡せどしーんと静まりかえり、やがて落日が対岸と水面と、そして我々をも覆い始めた。
そこに突然、大きな澪をひいてこちらに向かう生き物の姿が…。なぬっ? 我々は目を疑った。神秘沼にネス湖系謎の生物? よぉく見ると、なんだ、ブラックレトリバーが犬掻き? いや、潜っては顔を出し、沼中を泳ぎまわっている。 接近してきた姿に目を凝らすと、え、も、もしかして!? そしてついに姿を現わし、へんてこりんな声でご挨拶。 「アウッ、アウッ」 どっ・しぇ〜っ(一同ずっこける)。 海から迷い込んできたアザラシ、逃げ惑うアメマス、水中は上を下への大パニックだったに違いない。 釣れるワケない。 しばしの放心後、納竿。 果たして北海道の釣りは、我々内地人の常識を超越していたのである。 「エゾシカ」 夕間暮れに追われるように、宿への道のりを急ぐ。快調に飛ばす前の車が、時折がくんとスピードを落とす。鹿だ。 沿道にエゾシカたちが下りてきていて、いつ飛び出して来るかわからない。車間距離をたっぷり取り、ゆっくりやり過ごしてからスロットルを踏み込む。 いつしかすっかり黄昏(たそがれ)て、道の両脇に目を凝らし神経を配りながらの運転は、そこかしこに鹿が出ているので助手席にいても緊張する。 左手に何頭か。そのとき、中の一頭が、前の車に驚いたのか不穏な動きをした。ぐっとスピードを落とす。あっ! 飛び出してきた! 咄嗟に対向車がいないのを確かめ、ブレーキを踏みながら右に大きくハンドルを切る。相手が踏みとどまってくれればよけきれるのに、 なんと、鹿も右に向かって踊り出る。見る見るフロントガラス一杯に迫り来る鹿の姿。思わず目を覆った。ドガン!! 私が顔を上げたとき、 バネのように跳ね起きた雌鹿が大慌てで右手の丘を駆け上り逃げて行くところだった。幸い足を引きずる様子もなく、流血もなかったようだ。 かなりスピードは落ちていて車体に傷がなかったことから察するに相手も軽症であることを心から祈るしかないが、今しがたのショックと罪悪感は今後の運転のトラウマになりそうだ。 2、3mの距離に近づくまで鹿はクルマに気づかない。そして気づいたときには鹿はパニックに陥り判断なく躍動する。オーストラリアの四駆についているカンガルー除けの丈夫なガードバンパーの意味を思い知った。
もしも100キロ走行中に鹿が飛び出して衝突したら、鹿の命はおろか、無防備な小型のレンタカーではこちらの命さえ危なかったことを実感した。 目前に迫った鹿は思いのほか巨(おお)きかった。阿寒湖の土産物屋でこの話をしたら、店の主人が自分も鹿を4回はねたと体験談を話してくれた。激しい衝突ではクルマも大破する。 不幸にも路肩で昇天してしまった鹿はレンジャーが始末し、アイヌの地元民の間ではそんな鹿肉のお相伴に預かることが時折あるのだといっていた。 美味だ、とも。 また北海道では、増え過ぎた鹿の深刻な農林業被害の解決策の一環として、シカ狩猟が11月1日から1月31日まで解禁となるそうだ。 だから暮れから年始は日本中のハンターが猟銃を持って北海道に集まり、立派な角のオスの頭部をルーフに載せた四輪駆動車が行き交うという。 異様な光景ではないか。地元の伝統的な狩りの方法と違い、マナーの悪いハンターが必要な部分だけ持ち帰りあとは死骸を放置するので、 鉛弾ごと啄ばんだオオワシなどの猛禽類や水鳥が鉛で中毒死するなど、狩猟の結果が道東地区の自然生態系に深刻な被害をもたらしていると聞いた。 鹿猟に伴う事故も多く、鹿を追うあまり、これは絶対にやってはいけないことだが、ついに国道に向かって発泡したハンターの弾が、 通りすがりのクルマのドアと運転手の太腿を貫通する事故が起きたという。 これとは別に、地元民には農作物の実質的な食害対策としての有害駆除は通年、許可されているそうだ。 98年から3ヶ年計画で道によって推進されたエゾシカの半減政策「道東エゾシカ保護管理計画」は、当時の12万頭から三年間で6万頭に、 そして将来的には3万頭を目指して現在も引き続き実施されている。 釣りのもうひとつの楽しみは地元の人とのおしゃべりだ。衝突事故からアイヌの店で色々教えてもらった。白いハート型のおしりを跳ね上げ林の中へ逃げて行っては振り返る、 キョトンとした瞳と黒い鼻のかわいらしいエゾシカたちの姿と、北海道の貴重な生態系のバランスを維持することの難しさ、そしてアイヌの狩猟の正しさに思いを馳せた。 「ニジのち温泉」北海道ではサクラマスは通年禁漁なので、もしも川で釣れてしまったら即刻リリースしなければならない。 北海道に生息するヤマメのオスの半分とすべてのメスは降海してサクラマスになるそうだ。だから北海道の川にいるヤマメは山女と書くのに全部オスとはこれいかに、 なのだそうである。 4月30日、早朝から標津川河口。そこここにライズが見られる。何がいるのだろう。足の速いサクラマスは、 鮭のように塩水と淡水のはざまで順応のためにしばらくウロウロすることはなく、河口域を走り抜けるのだと聞いた。 なるほど敏捷なヤマメの性質はサクラマスになってもヤマメのままだ、かっこいいぞ、と妙に嬉しく、納得。 平日の早朝だというのにすでに地元の釣り人が何人も入っている。ここらのサラリーマンはこの季節、出社前の釣りに浮き足立つので寝るヒマがないから眠くって、と嘆かれた。 はいはい、それは羨ましい限りです。さて、我々がウグイやら、底からちっこいカレイを引揚げたりして、がっかりしたりびっくりしたりしているうちに、 Oさんの竿にサクラマスが掛かりバレたらしい。桜の頃に溯上するからサクラマス。GW、北海道の桜はまだまだ先、桜前線は今年も5月末あたりだそうだ。 5月1日は阿寒湖、阿寒川の解禁。だけど阿寒湖はまだ氷と雪に覆われて真っ白の白だ。男性陣はなんとそれでもそこに一番で立ち込んで、一等賞でアメマスを釣りたいそうだ。
実際、彼らは立ち込んだ。氷の隙間を見つけて入り、そこからは、表面のまだ5ミリほどもある氷をばりばりと腿のあたりで割りながら分け進む。それは予想外に痛い体験だったらしい。
人間砕氷船だ。オンザロックのグラスの中で自分が氷結する気にはなれないので、私は阿寒川の方を選択させていただいた。こちらも岸にはたっぷりの雪。ばっちりサイズのフキノトウ。帰りがけに摘むのに登れそうな崖に目星をつけておく。素晴らしい渓流が、滝の魚止めまで浅く深く、 ゆるやかなプールを作っている。げげっ!!! 見える見える、いるいるいるっ!!! 解禁日のウブな魚が気を抜いて捕食しているのが見てとれると、慌ててフライボックスを取り出す手元が焦る。ココロを鎮めてフライを選ぶが、ああ、迷妄。 しばらく様々なフライでトライしてみるが、うまく行かない。あちらですでに続けて挙げている上手そうなフライの兄さんがいる。何、使ってるのか、見に行っちゃえ。 「あのー、今日はー」後ろからヘンな女が近づいてきたので、明らかに怪訝そうな兄さん。でも、今の仕掛けと、 自分が得意でないので品揃えの貧困なニンフやウエットのフライボックスを開帳してアドバイスを乞うと、親切に教えてくれた。 「案外に流れが速いのでもっとオモリをしっかりと。フライは完全なナチュラルカラーでないとダメ。あ、これ、マドラーミノー? いいかもよ」 お礼を言ってウキウキせっかち気味に下流に戻る。我ながらわかりやすい性格である。ニンフにちらっと反応するが、冷静に見切る。えい、マドラーミノーを試してやれ。 思いきり遠くへ投げて、そのままどんどんラインを繰り出し流し、今度はクイクイちょっと弾みをつけながらのリトリーブ。水が透明なので、寄って来るマドラーミノーが視認できる。そのとき。 川の底がゴロンッとオレンジ色に反転した。息を止めてあわせる。ロッドに重さがのしかかった。ギラリと輝きを反射しながら翻る太い魚体。
少しばかり派手なやりとりにも、しっかりくわえたマドラーミノーははずれない。上がってきたのは50cm、体高12cmの立派すぎるニジマスだった。
上流から兄さんがVサインを送ってくれた。澄みきった水は氷のように冷たかった。阿寒湖から18km、オンネトーの入口、原生林の山あいに、野中(雌阿寒)温泉がある。木造りの湯船に、豊富な源泉が惜しげもなくざあざあとかけ流される素晴らしい秘湯だ。 濃い硫黄泉の香り立ち上り、とろりと肌にやさしい湯は泉質も折り紙つき。隣接の別館は露天風呂つき。こちらの受付けでソフトクリームを注文すると厨房で作ってきてくれて、 風呂上がりには最高です。大物を仕留めたお祝いにもどうぞ。 阿寒湖軍団は惨敗。寒風に髪逆立ち、半ば放心状態で帰宿。ご苦労であった。 温泉の方がよかったのにね。 超オススメ秘湯:野中(雌阿寒)温泉(9:00‐21:00):日帰り入浴¥200 野中(雌阿寒)温泉別館:露天風呂あり¥300、ソフトクリーム¥250 黒須 雪子 最新のコラム: 〜 多摩川のコイをフライで釣るの巻 〜 過去のコラム: 〜 男と女の狩猟本能の巻 〜 〜 北海道はアメ時々サクラのちニジ 〜 〜 番外編「麻布のヘラで異次元体験」 〜 〜 夢のような話:オショロコマの巻 〜 〜 日本の四季折々のフライフィッシング 〜 |
| 完成品フライショップトップ | フライフィッシングトップ SEOとSEMはACE |