| フライフィッシングのAFO | |||
|
|||
|
|
|||
![]()
|
川のせせらぎを辿って
〜 夢のような話:オショロコマの巻 〜
黒須雪子 (Yukiko Kurosu) について
古い本でちょっと昔の釣行記を読むと、源流帯で天然物がわんさと釣れすぎてすぐに大物でビクが一杯になる話や、尺岩魚はおろか、幻の三尺(って1mかい!?)岩魚に出会う話や、川を歩くと岩魚が足にぶつかってきて痛いようだったと地元のじいさまが語る場面など、ホンマかいなと思われる夢のような逸話がいっぱい書いてある。開高健さんくらいの時代になると、日本中から釣り人が殺到して大岩魚がいなくなるのを恐れてか、場所の名前を明かさずに「あの湖(こ)」などと女のコのように隠語で書いてあったりもするが、大抵はおおらかに地名や川の名前が出ている。有名な大岩魚「タキタロウ」の話は1983年(昭和58年)の山形新聞にも大見出しで出ていて、山形県朝日村の大鳥池で2m以上の魚影を確認しているそうだし、1989年(平成元年)の東京新聞には、新潟県糸魚川市高浪の池に棲む「なみたろう」の記事もあり、それによれば体長は3−5mという。何しろ新聞だから、眉唾っぽい話にも信憑性が出てくる。それらの中には自分も行ったことのある川や湖があるけれど、そんな夢のような目に遭うことは、もちろん、ない。まぁ、釣り人の話だから、人も羨む話がさらに脚色されているであろうことは想像がつくけれど、今は昔の物語…。 ところが一度、ささやかではあるけれど、ウソみたいなイイ思いを、私もしたことがある。入ったら、それはそれはものすごい川だった。大物ではないけれど、魚影の濃さで信じられないような川だった。その川の話をしてしまおうかな。どうしようかな。日本のとある川です。おそらくは日本に残された最後の楽園、釣り人が大切に護るべき残り少ない原始秘境、の話です。聞きたいですか? いや、大した話ではないんですがね…。でも聞きたい? オショロコマ。生息地の南限が北海道で、岩魚族だが斑点が赤い、日本では北海道だけに、特に道東に分布する固有種。そのオショロコマに会いに、知床に旅をした。1996年の夏のことである。北海道の大自然の中では目前に大海が広がり、苦労せずとも海の豊潤な釣果を食材として享受できるからか、わざわざ狭い渓流に分け入って小物狙いの釣りをする地元民はあまりいないようだった。釣り具店でも渓流用の仕掛けや情報は店の隅で埃を被っていたように思う。北海道では今も自然の形で海に直接流れ込み、魚が遡上できる川がたくさんある。特に知床では、川幅は比較的狭いが渓相粗く、ほとんどが人の手の入らない剥き出しの流れで、とろみにフライを落とせば、入渓からいきなりアタリ出す。そんな中で、羅臼(らうす)から相泊(あいどまり)に向かう途中、入り口付近にはロープあり、堰堤の上を腰までの深さに浸かりながら渡って入るひらけた川がある。女一人では絶対渡れないし、水量によっては男性でも入れないと思うが(その場合は他の川がたくさんあるので無理しないで諦めて下さい)、渡れさえすれば、それが知床一濃い、つまりおそらく日本一濃い川である。そろそろやるかと、竿を用意し、ドライをつけて空振りをし、狙ったところと全く違うところに失敗キャスティング、の途端にバシャバシャバシャッ! なぬっ!?!? 今のは何ぞや??? これは長いラインは不要とリールで巻き取っていると、ぶるるる…、あれま、一匹食いついている。ポイントめがけて落とすと即アタリ、なのにまだバシャ、バシャと一度に3匹くらい飛びついてくる。しょえーっ! 赤い斑点のオショロコマちゃんたちである。 もう、どこに間違えて何を落とそうが、無垢に、貪欲に、すっ飛んでくる。そのうち、いやん、あんたチビだからはずすのめんどいからダメッ、と食らいつく前にひょいとフライをあげる。あ、あんたもダメッ、ひょい、あ、また来た、お願い、来ないでー、食わないでーー。 移動しようと思ったら足元を走る。ゲッ、踏んづけそう! あ、こんにゃろ、ぶつかるなぃ、ひぇーん、ほんとに踏んづけそうで歩けないー! (実話です。) サイズはさすがに手のひらサイズ(しかも私の手は普通より小さい)。23cmは立派に見えた。一時間やれば100匹釣れる。 地球に、日本に、このような濃厚な自然が在り、それを体感できる幸福感に満たされた。気がつくと、ゆったりと流れるもやに包まれ、辺りはしめやかな幻想の世界。北海道特有の巨大なフキの葉の向こうから、エゾ鹿の家族がこちらを見つめている。ブッシュの中を何か小動物が走り、鹿たちが慌てて姿を消す。ドキッ…。クマが出そう…。川面の曲折が視界を遮る。出遭い頭のご対面をしてしまう前に、ここらで引き返した方がいいかもしれない。現在の情報は収集していないが、多分、変わっていないのでは。皆さんも、機会があれば是非、一生に一度の夢体験をお勧めします。ただし難点は、釣れすぎて10分で飽きる…。え? 川の名前?「ボーズはありえま川(せん)」。なんつって。 黒須 雪子 最新のコラム: 〜 多摩川のコイをフライで釣るの巻 〜 過去のコラム: 〜 男と女の狩猟本能の巻 〜 〜 北海道はアメ時々サクラのちニジ 〜 〜 番外編「麻布のヘラで異次元体験」 〜 〜 夢のような話:オショロコマの巻 〜 〜 日本の四季折々のフライフィッシング 〜 |
| 完成品フライショップトップ | フライフィッシングトップ SEOとSEMはACE |