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 〜 キングサーモン万歳 〜 

ケリー・ボーガー (Kelley Borger)について

私が感じるに、産卵の為川を遡上しているサーモンを釣った時の強烈なあの手ごたえは、 まさに『ジョーズ』で警察署長のマーチン・ブロッディーが、あのホホジロザメと格闘したそんなすごい感覚に似ているのではと思ったほどです。
マーチンもその海のギャングがどれ程凶暴なものかは知っていたでしょうが、まさかそれに立ち向かうとは考えてもいなかったでしょう。
私の初めてのサーモン釣りも正にそれのようにドラマチックで、期待と不安、勝利感と彼らに対する驚きに満ちたものになりました。

私が最初にサーモンを見たのは、アラスカではなくKohler's River Wildlife (コーラーズ川ワイルドライフ、ウィスコンシン州)と言う500エーカーもの 自然保護区の中の3km程の長さのSheboygan River(シボイガン川)でした。
この川でサーモンの遡上を見るのは、初めてではありませんでしたが、それは聖書の一節のように、押し合いへし合いながらびっしり覆うサーモンの上を 歩いて向こう岸に渡れるのではと思ったほどの光景でした。
しかしジェイソンと2003年秋にこの川へ釣りに出かけた時は、既に全てのサーモンが長い旅の果てに、無残な姿で川岸に打ち上げられていたのです。 その光景は頭では解っていたつもりでしたが、とっても残念なものでした。 そんな私にジェイソンは、次はこんな事にならないと慰めてくれたのです。

そして今回彼はリバーキーパーに電話を掛け、最新の川の状況を聞いてくれました。
天気、水位何れも良好、そして肝心のサーモンも群れをなしているとの事でした。

私はジェイソンのアラスカへのサーモンの釣行について聞いた話以外は、この釣りについて特に知識はありませんでしたから、単純にいつも使っている ロッドよりは多少大きめのロッドに、巨大なフライとショットをかませるぐらいに思っていました。だからその川に着いたら如何したら良いのかなんて、 はっきり言って解っていませんでした。

そしてまさに目指す川にたどり着こうとするその時、川の方角から何か凄まじい音だけが聞こえてきました。これは私には恐怖感にも似た感覚を 感じるものでした。

例えていえばある時、夕方ロッキー山脈のあまり人には知られていないトレッキングロードを一人で歩いていた時のことです。薄暗い森の中で、 小枝の"ポキッ"と折れる音や木の葉がカサカサと立てる音が耳に入ってきて、私の歩く足はその怖さで次第に速くなり、ついにはランニングしているようなスピードになったのでした。 でも今回大きく違うのは、そこから逃げるのではなく、音に向かって一生懸命走り出していたのです。私は何がそんな音を立てているのか早く知りたかった のです。
それはまるで何百ものビーバーが、尻尾を水に打ちつけ何かの警告を出しているように思われたのです。ミシガン湖の西側に位置するウィスコンシン州の シボイガンではこんな現象は良くあることらしいのですが…。

そして川に着いて目にしたものは、私の心臓をまるでドラムのように打ち始めたのです。

そうです、そこで目にしたのは何百という魚が川を登って行く光景です。 こんな小さな流れを、何万いや何十万という魚が今までに通り過ぎて行ったのでしょう。 私はこんな光景を今まで実際に目にしたことは無かったのです。

私が振り返ると、ジェイソンが心から満足げな顔で私を見ていました。彼は既に此処でこの風景を経験した事があったので、私がどんな思いかはきっと 予想していたのでしょう。 そうこうする内に、私は大きな期待とそして不安が交錯し出しました。 「流れのどの場所へ行くのがいいだろうか?」「どの魚を狙えば?」「どのフライを使うべきなのか?」私の頭の中は、色々な可能性を考えているうちに 収拾がつかなくなるほどでした。 普段の私は、かなり慎重な釣りをしていると思っています。虫のハッチや川の流れ、フライの選択そしてプレゼンテーション、でも今までの私の経験は まったく役に立ちませんでした。

私はこれといった自信が持てないまま、とりあえず流れに立ちこみキャスティングを始めてみたのです。時計回りに3時方向、4時方向そして9時方向と体を 回しながらキャスティングを繰り返してみました。後方そして前方、実際私は目が廻るかと思うほど夢中でそれを続けたのです。 私はかつてフライフィッシングで興奮したり、全てから開放されたようなあの素晴らしい時間を経験したとは思えないほど自信をなくし、焦ってあたふたしていたのです。 私をそうさせるほどに、目の前には数え切れない無数のキングサーモンが川上に向かって泳いでいたのです。

錯乱の45分が過ぎたあたりからようやく落ち着きを取り戻し、教えてもらったテクニックを思い出すことが出来るようになりました。 ロッドワークを巧みに使い、的確なプレゼンテーションを心がけると、20秒も経たずに私は最初のキングサーモンをフックすることが出来ました。何の 予告も無く、私のラインの先にはまるでその大きさと同じ犬でも飛び跳ねているかの勢いで、キングサーモンがジャンプしていました。

0度に近い気温にも関わらず、私の額からは汗が出るほどに興奮し上気していました。 大きくしなり腕だけだと持っていかれそうになるロッドを、必至に腰に当てての格闘でした。 その荒々しい動きをする巨大なキングサーモンの姿がちらっと見えた時、絶対にこれを釣り上げこの手に掴んでみたいと言う欲求が猛烈に湧き上がって 来ました。 その巨大な魚体が少なくとも25パウンド(11kg)で、3フィート(90cm)あるだろうとジェイソンが確認するまで、必死にリールを巻き続けたのです。

私は今までこんな魚と格闘した覚えはなかったので、このチャンスを逃したくないとのプレシャーはかなりのものでした。 実際に掛かった時間は数十秒だったのかも知れませんが、私の記憶の中では数時間も続いていたような忘れられないものとなりました。 私はやっとのことでキングサーモンを引き寄せ、ゆっくりと身をかがめ素早くこの大きな魚の尾びれを掴みました。それまでは「糸が"プツン!」と 切れないだろうか?」「魚が突然上流に走り出し、永遠にその姿を見失うのでは!」とハラハラものでした。 私の意識が次第に興奮から冷め始め、この大きな魚体を見て初めてこの勝負に勝ったのか、それともこの魚にもてあそばれたのかを考えてしまいました。 そしてその魚体を優しく撫で、その鱗の美しさに感激したのです。

私はこの束の間のキングサーモンとの触れ合いで、畏敬の念に似た物を覚えました。 卵から魚に成長する事、誕生から長い旅を経て、死に至るという一生のサイクルを持つこの素晴らしい生き物が、私の手の中にあるのです。 このとてつもない生命力を持った魚との勝負は、私に初の勝利感のような感触をもたらしてくれたのは間違いないのですが、それと同時に彼等から、 この先私が自然に対する深い感謝と愛情を持つことを十分に教えてくれたのです。


ケリー・ボーガー (Kelley Borger)

訳 石川美代子




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