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ギャラティンを訪ねて

 〜 池上彰 (Akira Ikegami) 〜 

池上彰 (Akira Ikegami)について

2002年8月、アメリカ、モンタナ州にあるギャラティン川を訪ねた。 1992年ロバート・レッドフォード監督の映画「リバー・ランズ・スルー・イット」を観て以来その川でフライフィッシングをするというのが僕の長年の夢だった。出発する前のアメリカの川のイメージは、雄大でなおかつ大胆な表情しか想像できなかった。強い日差しに写る濃 い緑に囲まれながらロッキー山脈の懐奥深く入り、かすかに聞こえる川の轟音、木々の風に揺れる音を聞きながら目的地のスクウオー・クリーク・ブリッジへと車を飛ばす。 期待で興奮する体にカーウィンドウから入ってくる北北西の風が心地いい。実際に川に着いてみると、男性的な荒々しく力強く流れている部分と、女性的な繊細でなだらかな部分とが融合しているのを見て『ここだ!』と頭の中で何かがはじけた気分だっ た。

このギャラティン・ナショナル・フォレストは監督のロバート・レッドフォードが実際の 舞台ミズーラらよりも1900年代初めの景色を色濃く残しているという理由で選んだらしい。映画の中でこの川はマクリーン一家の愛情、たくましさの横で確かに静かに流れていた、まさにその川だった。

僕はこの川でフライフィッシングはもちろん、自然の風物―川、山、鳥、果てしなく広がる大きな空ビッグ・スカイ(ちなみにモンタナ州のニックネームはビッグ・スカイ)を出来るかぎり楽しみたいと思った。そこで川を歩いていてアメリカ人アングラーと出会うと、必ずこちらから「Hi!」とあいさつすることにした。相手もニコリとして「Hi!」と返してくる。 そして、しばしロッドを休めて話し込む。「日本から来たのか。よく来たな。おい、あのライズはお前のものだ。キャストしろ」といってくれる。また、ミシガンから休暇で来ている 家族連れと同じ流れを釣っていたときのこと。僕のフライに30センチほどのレインボ ーがかかり、それをネットに収めると、みんなで走りよってきて祝福してくれた。記念撮影をパチリ。その後の話で僕がかつてウィスコンシンに留学していたことを話したら、「Amazing!」といってしばらく話し込んでしまった。どうやらアメリカ人は外からの訪問客をもてなし、楽しませるホスピタリティに溢れているようだ。この楽しさは忘れることのできない素晴らしい思い出となった。また、アメリカには夫人、恋人同伴で釣りを楽しんでいる男性アングラーが多いようにも見受けられた。日本の場合、どうも釣りに限らず男性にとって、趣味は女性から逃げる口実にもなりがちだが…

アメリカの川は雄大で壮観かつ、なだらか。勇者の通り道のように見える。川岸に群生するcedarには力を、そして生命力を感じる。一方、日本の川は神様の宝物である。四季があり、そのつど変化もある。そして何よりも繊細で美しい。特にブナの木 萌える頃は楽園のようだ。

日本人がぜひ行きたいと思うアメリカの川にアイダホ州のヘンリーズ・フォークが ある。たいていの日本のフライアングラーの憧れはこの川だ。ではなぜ?それは、川がきれいで、コンディションがいいから。きれいな鰭の大きな鱒がいるから。川のほとりに住む人々の心が温かいからではないか。日本にもこの川のように何度も何度も外国からのアングラーを呼び戻す力を持った川が生まれてもよいのではないだろうか。

ギャラティン・ナショナル・フォレスト内ではゴミに相当するものが何一つ落ちてな く、訪れる者、旅する者を決して不愉快にすることがない。実際、川で釣りをしていて も、まったくゴミに出会うことはなかった。それにしても何なのだろう、日本の川は。たとえば、一本の渓流を1日かけて釣り歩いたとする。たいていの場合、僕の視界には 人間からの置き土産が飛び込んでくる。弁当の容器、コンビニの白い袋、牛乳パック、ビールの空き缶。どれも持ってくるときのほうが重たいのにね。元来、そういったものが無ければ、岩魚やヤマメの美しさもひとしおだ。日本の川の中で僕が大好きな2本 をあげよう。広島県吉和の中津谷川と、これも広島県の芸北町を流れる大谷川である。これらは豊饒のブナの原生林を有する西中国山地を流れていて、多くのアマゴ、 ゴギ(西中国山地特産のイワナ)の天然魚を育てる。近年ボランティアの尽力もあって 本当にゴミが落ちていない素晴らしい清流になっている。アメリカ人にもぜひ訪れて釣 りをしてほしい川である。そして彼らもいうのだ。「また来たいな」と。

ゴミひとつ落ちていないギャラティン。ゴミだらけのわが国ニッポンの渓流。花鳥風月。森羅万象。1日の中で時間によって温度差があり、他に例を見ないほどの種類の動植物を育てるこの国の森、そして川。日本人はこのことをもっと世界に誇ってもいい。本来、自然に対する姿というのはそこに住む人々の姿そのものではないだろうか。 春になったら、みんなでヤマメ釣りを楽しもう。決して乱獲はしないように。夏にはきれいな川原で鳥や、虫の声を聞きながらキャンプしよう。夜遅くまで騒ぐのはやめよう。 秋には家族そろってマツタケ、木の実を拾いに行こう。ただし動物たちの庭に4輪駆動のタイヤの跡をつけるのは…冬には好きな人とゲレンデに立とう。低俗な音楽は止めてしまおう。でも、何やってもゴミは持って帰ろう。"This is definitely why I think what I think." この国の自然を愛して止まない僕からのメッセージです。

広島県三原市
池上彰




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